~はじめに~

地球を二回り半もするパイプライン

人間一人の血管は、太いものから目に見えないくらい細い毛細血管まで、
全部つなげるとおよそ96,000キロメートルもあることをご存知ですか。
それはなんと地球を2回り半もする長さになります。

体の隅々まで酸素や栄養分を行き渡らせ、不用となった老廃物や炭酸ガス
運び去るために、私たちの体には信じられないほど膨大な血管という
パイプ
ラインが、張り巡らされているのです。

ご承知のように、”血管には血液が流れています。”

私たちの体のすべての組織、細胞は、この血液に、そしてその血液を
運ぶ
血管の影響を受けています。

血液は血管という「乗り物」に乗って旅をしています。

心臓の左心室に端を発している大動脈から始まり、さまざまな臓器に
向け
て何本かの動脈に枝分かれしながら、血管はだんだん細くなり細動
脈に
なって臓器や筋肉など体の組織に入り込み、網の目のような毛細血
管と
なります。

毛細血管は、酸素や栄養分を補給する一方で老廃物や二酸化炭素を回収
し、
今度は細動脈にとなって合流し太くなりながら大静脈に集まって
心臓の右
心房へと還っていきます。

血液はこの道順に沿って、体の中を旅しているのです。

心臓から押し出され流れる血液はもの凄いスピードです。
当然、それを受け入れる太い動脈は、少々の圧力がかかっても対処
できる
ように弾力性に富んでいます。
血管壁の厚さは2~3㎜、直径は2~3㎝もあり、とても丈夫にでき
てい
るのです。

毛細血管はどうでしょう。毛細血管は物資交換が行われやすいように
血液
の流れもごく緩やかになり、太さも5~10μ(1,000分の1㎜)
と目に見え
ないほどのサイズです。

血管の不思議について学ぶ探索の旅に出かける前に、静脈の基礎知識
につい
てもあらかじめ知っておきましょう。

静脈の血管は、心臓に戻る血液が流れる管です。
動脈に比べると血液の勢いはやや緩やかで、血管壁の厚さも1~2㎝と、
動脈
よりスリムにできています。

静脈は心臓に戻る管であるため特殊な構造、いわゆる血液の逆流を防ぐ
ために
一定の間隔に、内臓の薄い襞(ヒダ)を突出させた弁がついた
構造となっています。

静脈は心臓の「安全弁」

静脈には、その役割上、ほかにも特徴的な仕組みを持っています。
静脈は、動脈に比べて弾力も抵抗力もありませんが、伸び縮みはうまく
でき
る仕組みになっています。
これは血液を受け入れる態勢をいつも整えているからです。

これはとても大事な役割です。
心不全などで心臓機能が落ちて、あまり動けない場合は心臓から送り
出す血液
量(心拍出量)をできるだけ少なくして、心臓の負担を減らす
ように、静脈
膨らんで余分な血液を溜めておくようにできているのです。

静脈に血液が溜まるため、肝臓がうっ血して腫れたあり、足にむくみが
出たりしますが、そんな時に心臓にとって静脈の存在は大切な安全弁の
機能となって
いるのです。

これから始まる血管の不思議を知る探索の旅では、血管や血液について、
読まれる方にとって知っておいて役立つ「情報」が満載されていますが
この旅の目的はなんなのでしょうか。

結論から先に申し上げれば、「人は血管と共に老いる」という言葉が
あります。

血管の老化をできるだけ予防して、丈夫に長持ちさせましょうというのが
目的です。

では、なぜ血管の老化を防ぐことが重要なのでしょう。
それは冒頭の標題にあるように、血管力と血巡り(血流)の状態がどうで
あるかが
健康とアンチエイジングの鍵を握る要となるからです。
一口に健康と言っても、実は血管が「健康な状態」であることは、認知症
の防止
にも関係してくるのです。

詳しくは、順次、説明をしていきますが、この「はじめに」では血管の
特性について簡単に述べて、次章に進むことにしましょう。

私たちの全部の血管が、いつもフル稼働しているのではないということ
をご存知
でしょうか。
容量血管という静脈は、血液を受け入れる容量範囲が特別に大きな血管
ですが、
静脈に限らずすべての血管は「余力」を持っています。
ふだんは血流が少なく、縮んでいて、運動の時のように血流がたくさん
必要と
される時にだけ使われる、いわば血管は貯金のようになっている
特性があるのです。

ですから使わなければだめなのです。

特に年を取ってからは頭を使ったり適度な運動をしたりすることで血液
を体の隅々まで行きわたらせ、できるだけ血流を促すことが大切です。
それによって、さまざまな器官も動きが保たれ、動脈硬化を遅らせるこ
とも可能
となります。

血流の要、冠状動脈
ハードワークに耐える心臓の「命綱」
強いられる激務

物事にはすべて始まりがあります。

この血管の不思議を知る探索の旅にも始まり、いわゆる血液が体の隅々
まで流れて行く起点があります。

それは心臓です。

血液が、心臓を出発して血管を巡りまた心臓に戻る。
この仕組みの理解をなくして、これから記述していく血管や血液の話は
始まりません。


そこで、本論に入る前に少しだけ触れておかなければならないのが、
心臓の筋肉を
取り囲んでいる血管の冠状動脈の働きです。


冠動脈硬化、という医療用語があります。お医者さんが、心臓に問題
を抱える来院者
に向かって「冠動脈の疑いがありますね」と言われ、
患者さんが思わず「え、肝臓にも
問題があるのですか」と、肝臓の
「肝」と冠状動脈の「冠」とを勘違いをしたという話
をよく聞きます。

この場合のカンは冠状動脈のことです。

心臓は、左右2つずつ4つの部屋(左右心房と左心室)」に分かれてい
ることは、ご存知
ですね。
これらの部屋は大きな血管とつながり、全身に隈なく新鮮な血液を送る
システムを司って
います。


心臓の筋肉自身も栄養をもらって休みなく動かなければなりません。
その筋肉に入り込み
心臓に直接、栄養素や酸素を送り込んでいるのが
「冠状動脈」です。
よく言われるように、
心臓が全身の「命綱」なら、冠状動脈はその心臓
にとっての「命綱」でもあるのです。

以下、少しばかり専門的な説明となりますが嫌がらずお付き合いください。

冠状動脈は、左心室から出る大動脈の根元の部分で,左冠状動脈と右冠
状動脈に分かれます。左冠状動脈のほうは、さらに前下行枝、回旋枝と
呼ばれるに2本の枝に分か
れます。

冠状動脈はこうした太い枝を中心にして、だんだん細かく複雑に枝分か
れし、またお互いに交流し合ったりして心臓全域をカバーしているのです。働きを終えた血液、いわゆる静脈血は感情静脈を通って右心房に入って
きます。心臓を養う血液は、
このような循環を辿りながら重要な心臓を
守っているのです。

心臓からドッキンという1回の拍動でどのくらいの血液が送り出されて
いるかご存知ですか。
80㏄の血液量です。その約4~5%が冠状動脈に流れ込みます。
たった4%(3㏄)
かと少ないように思われるでしょうが、心臓の重さ
(約体重の0.5%)から考えれば、か
なりの量です。
このことは何を意味しているのでしょうか。


それは、冠状動脈は四六時中、結構ハードな仕事を強いられているという
ことを
意味しています。私たちの体は実に精緻巧妙に作られています。

この動脈が細かく枝分かれをして相互に交通し合っているのもそのせいで、もしど
れか1本が疲れ果ててダメージを受けても、バイパスを作って他の
枝が補えられる

ようなしくみになっているのです。

心臓のあえぎ
いかに精緻巧妙にできていても、冠状動脈も加齢とともに疲れ冠状動脈
硬化を起こしてきます。この老化は、統計上、女性よりも男性が早く、
一般的には男性は50代
から、女性は60代から始まります。この動脈硬化
にいっそう拍車をかけるのが、
ストレスやコレステロールです。

弾力を失い、通りの狭くなった冠状動脈は、心臓の要求に十分に応える
だけの血液を送ることができなくなります。その結果、心臓は酸素不足、
栄養不足となってしまう
のです。
こうした状態が狭心症です。

狭心症の発作の時に使われるニトログリセリンは、この狭くなった血管
を広げ、必要な血液量を確保する働きがあります。

こうした薬の効果があるうちは、まだいい方です。
バイパスも動かなくなり、まったく血液が冠状動脈に行かなくなると、
その枝が養っている部分の心筋は死んでしまいます。

こうした症状が心筋梗塞といわれるものです。

ダメージを受けた範囲が小さければ、まだほかの部分が肩代わりする
ことはできます。
しかし、広範囲にやられてしまうと、命綱の元の命綱が切れることに
なってしまいます。

ここでは血液が体の隅々まで流れて行く起点であり、心臓を養う冠状
動脈について触れました。
これから「血管力と血巡り力の話」を進めるにあたって、知っておかな
ければならない
原点、いわば序章のような内容についてでした。

冠状動脈は、ふだんは目立つこのなく一生懸命に働き私たちの生命活動
を支えていてくれますが、暴飲暴食、ストレス、運動不足、喫煙といった
悪しき生活習慣で負担を
かけると機能が損なわれ、重大な疾病を招くこと
となります。

いよいよこれ以降は、そうした機能が損なわれ動脈硬化を発症したら、
どうなるのか。

動脈硬化症にはどのようなものがあるのか。
その原因はどんなことがあるのか。

また、現在、発症をしていたらどうすればよいのか。
あるいは未然に発症を防ぐには
どうしたらよいのか等々について考えて
みることにしましょう。

健康とアンチエイジングの鍵を握る血管。
地球を2回り半もする長さの血管力と血巡り(血流)状態のあるべき姿
を求めて、さあ、血管の不思議を知る探索の旅にでかけましょう。